斑雪煌めく朝も 風光る昼も 知らずに夢の中 春遅しと寝返り 伸びた癖毛を解かす 漆塗りの櫛 金箔の椿は 春永しとうつら 軒下で目立たず芽吹く 草花の仰ぐは 桜か 空か 灯りの漏れる暖簾の向こうか 欠けた席はそのままに 引き戸を閉めずに 浅酌低唱は脇に 春の夜の宴 余寒うらめし朝も 花冷えの夕も 報せの文は来ず 今や遅しと待つ 綴じた文書に挟む 四方の国の花 何度の四季巡る 女郎花の栞 やわらかな葉衣羽織る 欅の並木を 通り過ぐ人は 愉しげな声のする方へ 陰ゆける日々のまにまに 終日のらりと 惜別